【Tableau】サンプル−スーパーストアで『実践 顧客起点マーケティング』【Data Saber Apprentice】

この記事は Tableau DATA Saber Apprenticeのコミュニティポイント稼ぎの記事です。

 

2019年のマーケティング業界で最も話題になった本の一つに、元スマートニュース西口さんの『実践 顧客起点マーケティング』が挙げられるかと思います。

私はマーケティングリサーチ業界の隅っこで細々と生きているのですが、本書にインスパイアされた分析依頼をこの1年で何度か目にしました。なかには本書を「赤本」と呼んでいる方々もいらっしゃったくらいです*1

ということで、今回は本書に紹介されていた『5セグマップ』というフレームワークを、Tableauユーザーみんなが大好きサンプル−スーパーストアで試してみようという企画です。

『5セグマップ』って?

顧客層の全体像を理解するためのフレームワークとして、本書では『5セグマップ』『9セグマップ』という考え方が提唱されていました。

『5セグマップ』の概要は下図の通りです*2

顧客ピラミッド

『9セグマップ』は、さらに推奨意向の強さでロイヤル〜認知・未購買顧客をさらに二分割しています。

これらのセグメントで顧客層を分けることで、どのセグメントをターゲットにした施策を打てばよいのか戦略を立てることが出来ます。また、過去の自ブランドや競合ブランドと『5セグマップ』の構造を比較することで、現在の自ブランドの課題が認知にあるのか、それともロイヤル顧客化にあるのか、みたいなことを考えることができます。

 

ということで、ここからはTableau実践編です。サンプル−スーパーストアで『5セグマップ』を作ってみます*3

主役とライバルを決めよう

ということで、ここからはTableauも使いながら。

本来のマーケティングであれば主役もライバルもだいたい決まってるんですが、今回に限っては先にデータありきですので、どのカテゴリ/メーカーを対象にするかを探っていきたいと思います*4

せっかくの顧客セグメントなので、なるだけ顧客数が多い法が良いですよね。直近2年くらいのデータでいちばん顧客数の多いサブカテゴリを対象市場としましょう。

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ということで、僅差で『椅子』サブカテゴリの顧客数がトップでした。

では、今度は『5セグマップ』の主人公となるメーカーと、そのライバルとなるメーカーをそれぞれ設定してみましょう。メーカーごとの売上推移を確認してみます。

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椅子内トップのHonですが、2015→2016にかけて売上を落としている課題があるようです。ということで、今回の『5セグマップ』の主人公はHonに決定です。競合ブランドですが、椅子内で唯一2015→2016の売上を伸ばしているOffice Starは研究する価値がありそうですね。

ということで、Honのマーケティング担当が、お得意先の「スーパーストア」さんのデータを預かって分析し、スーパーストアさんとの次期商談のために使う、みたいなシナリオを考えてみましょう。

セグメント定義を決める

次は早速顧客を5セグメントに分解していきたいのですが、『実践 顧客起点マーケティング』ではアンケートから作成しているセグメントをどうやって購買ログから再現するかが悩みどころです。

ロイヤル顧客:認知あり/購入頻度 高

ここは購買ログでも1年に複数回購入している人を考えれば定義できそうです。「購入回数(≒ブランドへの接触頻度)が高いほど、ロイヤル顧客である」というのが5セグマップでの考え方なのでしょう。とはいえ、椅子なんて1年にそう何度も買うものじゃないので、1年に2回買えばロイヤル顧客扱いになるのかなあ、と思い、データを見た結果が下記の通り。

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競合に設定したいOffice Starの2回以上購入者が1人しか存在しないですね。スーパーストアのデータ量の少なさ(実購買ログにしては少なすぎる)ゆえか、それとも椅子カテゴリで年2回以上購入なんてありえないということか。

回数でロイヤル顧客を定義できそうにないので、やむを得ず数量で定義してみます。メーカーごと購入数量ごとの人数分布を見てみましょう。売上じゃないのは、なるだけ関与度っぽい指標にしたいための、せめてもの抵抗です。

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ということで、6個以上購入者が、Hon購入者の約4分の1を占めています。ロイヤル顧客を20〜30%くらいのラインで定義するのは、見栄え的にも、パレートの法則的にも、まあ、妥当なラインでしょう。

よって、「直近1年間(2016年)で、当該メーカーを5個以上購入している顧客」を、本分析におけるロイヤル顧客と定義します。

一般顧客:認知あり/購入頻度中〜低

ロイヤル顧客の定義ができてしまえば、ここは簡単。単にロイヤルじゃない顧客であればよいので、「直近1年間(2016年)で、当該メーカーを1〜5個購入している顧客」を、本分析の一般顧客と定義します。

個人的には、ここで一般顧客を「現在、ブランドにお金を落としてくれている顧客」として、「新規顧客」と「継続顧客」にむやみに分割しないところが『5セグマップ』の哲学の一つかなって思います。その顧客が新規だろうが継続だろうが、ロイヤル顧客へとセグメントを動かしたいときの打ち手は同じって発想なのでしょう。確かに…!

離反顧客:認知あり/購入経験あり/現在購入なし

ここでの議論は「購入経験あり」をどう受け取るかです。サンプル−スーパーストアでは、最大で2013-2015年の3年分を「購入経験」としてみることができます。

ところで、『実践 顧客起点マーケティング』を読む限り、『5セグマップ』は半年〜1年単位で最新版に更新することが前提の作りになっているように思えます。それによって、この期間のマーケティング施策が顧客構成をどのように変化させたのかを測定することができるからです。

なので、「購入経験」の集計期間をあんまり長くとるのは、『5セグマップ』の思想とは合わないんじゃないかなぁーと考えました。どんなに長くても1年 vs 1年でしょう。したがって、離反顧客の定義は「直近1年間(2016年)に当該メーカーの購入が無いが、その前の1年感(2015年)に当該メーカーの購入がある顧客」としましょう。

認知、未購入顧客:認知あり/購入経験なし

ここまでずっと棚上げにしてきた「認知あり」をどう定義するか問題と、そろそろ真面目に向き合わねばなりません。困りました。だって本家ではアンケートで測定してるんですから。

今回は椅子が対象ですし、椅子を買うときってネットや店頭で他商品と色々比較検討くらいはするよね、だからそこで認知くらいはしているよね、とみなすしか判定方法がありません。ということで、今回は便宜的に「直近を含む過去2年間で、該当サブカテゴリ(メーカー問わず)の購入が1個以上ある顧客」と定義しようと思います。

この方法の欠点として、必然的にこれまでの4セグメントの合計人数がどのメーカーでも同じになってしまいます。なのでコミュニケーション施策の効果を測定できませんが、今回のデータは「スーパーストア」の外の世界を測定しようがないので勘弁してください。

未認知顧客:認知なし

「認知なし」、わかんないですねー。今回は「直近を含む過去2年間で、該当サブカテゴリ(メーカー問わず)の購入がない顧客」と定義するしかありません。

ところで、この区分が成り立つってことは「購入してる人は当該ブランドを必ず認知してる」って前提があると思うんです。これって西口さんがこれまで関わってきたアプリや化粧品のようなブランドを意識する場面の多いカテゴリならではの発想ですよね。豆腐とかだと「購入経験あるけど、ブランドを意識していない」みたいなものもあると思うんです。食品系メーカーさんなど、ブランドを意識しない購買・サービス利用がなされるカテゴリのマーケ担当が『5セグ/9セグマップ』を使う場合はご注意くださいませ。

サンプル−スーパーストアで『5セグマップ』を作る

肝心のセグメント判定ですが、正直、ここはどうしたら良いのかわかりません。

とりあえず今回は下記の手順で力づくに判定しました。

  1. 顧客×年×メーカー粒度で購入数量を求める
  2. その内容を使って「ロイヤル顧客flg」「一般顧客flg」「過去期間購入flg」を
    メーカーごとにつくる
  3. 上記の3つに対応する顧客名の入ったセットをメーカーごとに作成する
  4. 別途、「サブカテゴリ購入者」だけが入ったセットを作成する
  5. 4つのセットのin/outを使ったif文判定で、5セグメント判定をする
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「Honの5セグメント」と「Office Starの5セグメント」は、購買データを何重かに重複させて持たせない限りは、基本的に別カラムとして持ったほうが良さそうという点がポイントです。

「Honのロイヤル顧客でも、Office Starにとっては一般顧客」「Honの認知・未購買顧客であることは、Honの購買がないという事実でしか判定できない」ということを、1つのカラムで表現しようとすると、よほど上手く工夫しないと無理が生じてしまいます。

個人的には、このセグメント判定はTableauじゃなくって他のETLツールでやったほうが良いんじゃないかと思っています。餅は餅屋に任せたほうが良いんじゃないかと思います。もしもTableauでいい感じに判定する方法があったら教えて下さい。

できあがり

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完成した『5セグマップ』はこんなかんじです。

  • 市場(ここではスーパーストア利用者)の半分がメーカーを認知していない
  • 認知している人の中でも7割近くが購入に至っていない
  • という傾向はOffice Starも同様である
  • ロイヤル顧客・一般については、HonのほうがOffice Starよりやや比率高め

未認知顧客が半数を占めていることや、(椅子サブカテゴリ内トップにも関わらず)認知顧客の購買に繋がっていないことを考えると、『5セグマップ』からは「競合に先駆けて何とか認知を獲得しよう!」という施策を打ちたくなるところです。

オーバーラップ分析

『実践 顧客起点マーケティング』では、自社と競合の5セグメントを掛け合わせて顧客分布を把握する「オーバーラップ分析」も紹介されています。

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「いずれも未認知」「いずれも認知・未購入」層が多いので、認知が取れていない、初回購入に繋がっていないという課題は競合のOffice Starも含めた椅子カテゴリ全体の課題のようです*5。椅子カテゴリ全体でアプローチ出来ていない層がいるってことだと思います。

強いて他に何か言うとすれば、Office Starのロイヤル顧客にHonが一切アプローチできていないのは課題かもしれません。が、敵のロイヤル顧客はそう簡単に崩せない(or そんなものは幻想)ので、素直に未認知・未購買層向けの間口拡大施策を考えたほうが良さそうです。 

ここまでの結果から、カテゴリ第一想起を拡大する(テレビCMみたいな)リーチ優先施策に取り組めれば、圧倒的な競合優位を築く余地がありそうです。とはいえ今回のデータは対流通向けの施策を考えるもの。ということで、「未認知顧客にHonを知ってもらうための店頭施策を打ちましょう!」という提案をするために、偉い人に掛け合ってスーパーストアさんに払う販促費を増額してもらうデータに使えそうです。流通商談で「同時期にテレビCMも打とうと思ってるんです!」みたいな話ができれば、スーパーストアさんも喜んで店頭施策に協力してくれるかもしれません。

もうすこし、購買データを使って『5セグマップ』

本来はアンケート調査で作るはずの『5セグマップ』を無理して購買ログで作ったので、せっかくだから購買データならではの掘り下げ方もしてみましょう。

セグメント別の過去購買傾向

まずは、2016年のセグメントを使って2016年とその前年の購買を分解してみます。

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2016年のHonの売上の半分以上はロイヤル顧客によって支えられており、その比率は競合のOffice Starよりも高いことが分かります。一方でOffice Starは2015→2016年にかけて新規の一般顧客を獲得できてます。これが2016年の好調の要因となっていそうです。上に述べたリーチ獲得施策を既に打った結果かもしれません。

ということよりもむしろ、自社、競合ともに昨年(2015年)の売上の8割以上が現在離反している顧客に支えられていたという事実の方が衝撃です。なんかもう、このカテゴリは毎年顧客がリセットされるものだと思ったほうが良さそうです。『ブランディングの科学』でも指摘されているように、このカテゴリでのロイヤル顧客は特に再現性を持って”育成”できるものではなさそうです。どんどん新規を獲得して、その分どんどん離反していくようなユーザー構成はそう簡単には変えられなさそう。まあ、椅子ですし。

セグメント別の競合メーカー探索 

続いてもうひとつ。 Honの各セグメントに当たる人たちが、カテゴリ内の他メーカーを何人が買っていたか? & 購入者1人あたりの金額はどうなっているか? というお話です。

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顧客数に着目すると、Honの離反顧客の一部やNovimexやSafcoといったメーカーに流れていそうです。購入者1人あたり金額のほうは、それぞれ人数が違うので一概には言えませんが、少なくとも一般顧客のなかでHonの値がむしろ低めに出ているので、Hon一般顧客セグメントだけれど他メーカーのほうがプライオリティが高い顧客というのも多少は存在していそうです。このメーカーとのオーバーラップ分析をやってみると、また別の傾向が見えてくるかもしれません。

また、人数・購入者1人あたり金額ともに、Honの現在購入セグメントのOffice Starの値は低めとなっているので、このデータからはHonからみてOffice Starとは上手いこと顧客の棲み分けができていそうな感じです。

まとめ

そういえばこの記事はTableauユーザーの認定試験の一環で書かれた記事でした。前回の記事もそうですが、マーケティングに関するビジネス/ドメイン知識でゴリ推していますね。

ということなので、最後にこのお話をわざわざTableauでやることのメリット/デメリットを整理してみます。

Tableauでやるメリット

  • セグメントごとの特徴を簡単に探索できる
  • セグメントを流用して、他カテゴリ動向も把握できる
  • エリア別や顧客区分別など、分析軸の追加も簡単
  • 分析と視覚化がほぼ同時にできる

Tableauでやるデメリット

  • セグメント判定が面倒くさい
  • 作ったセグメントを1カラムで持てないので、
    Tableau上で一つのViz内で比較するのが面倒くさい
  • 使いやすいVizにするには、データ側の作り込みが必須条件

マーケティングリサーチ業界でTableauといえば「定期的に調査で測定したKPI指標を提供するダッシュボードを作成・提供するもの」みたいな使い方が多いのですが、インサイトを得るために探索的にデータを見るという使い方でもTableauは向いているかもしれません。今回の記事はその練習ということで。

*1:打ち合わせが『赤本のp.29によると〜』って進むんですが、Kindkeで購入したので幾度となく話に置いていかれました…

*2:西口一希『実践 顧客起点マーケティング』より引用

*3:『9セグマップ』じゃない理由は、購入ログから推奨意向(特に未購買顧客のもの)を確かめようがないからです。『実践 顧客起点マーケティング』のフレームワークは、基本的にアンケート調査から作成することを前提とした作りになっています。

*4:メーカー情報を使いたいので、Data Saber試験用のデータをお借りしています。

*5:このデータ傾向は購買ログから無理やり「認知」を定義したことが原因なんですが、そこはご愛嬌。